作りながら考えたこと 一次情報

動画制作の工数は型で減らせるか

動画制作の工数問題は、撮影や編集より先に「指示の作り方」で起きています。私は天然水族感ツアーの動画をつくる際、AIへの指示を舞台・人物・時間配分・音声・避けたいものという部品に分けて固定し、案件ごとに変わるのは「今回何を伝えたいか」という一点だけにしています。これだけで、動画制作は毎回ゼロから考える仕事から、部品を組み合わせて繰り返せる仕組みに変わります。本稿では、その分け方と、現場で分かった落とし穴を具体的にお伝えします。

なぜ動画制作はいつも「ゼロから」になるのか

動画生成AIに「いい感じの海の動画をお願い」とだけ伝えると、出てくる絵は毎回バラバラです。詩的な一文やキーワードの羅列だけでは、AIは何を主役にして、どこにカメラを置き、何秒で何を見せたいのかを判断できません。目的(何のための動画か)と手段(カメラワーク・音声・時間配分)が一緒くたになっている指示は、AIにとっても人にとっても迷いのもとです。

これは外部に発注する場合も同じです。依頼のたびに「舞台はどうする、衣装はどうする、尺はどうする」をイチから言葉にしていると、考える時間そのものが工数になります。つまり動画制作の工数問題は、撮影や編集の作業量よりも先に、「指示の作り方」で発生していることが多いというのが私の見立てです。

さらに厄介なのは、この「ゼロから考える」やり方だと、担当者が変わった瞬間に型そのものが消えてしまうことです。前回どう指示したかが頭の中にしかないと、次に頼む人が変わるたびに一から相談し直すことになります。仕組みとして見直すなら、まず疑うべきは「毎回ゼロから指示文を書いていないか」「その指示が自分の頭の中にしか無いのではないか」の二点です。変わらない部分と、案件ごとに変わる部分を言葉にして分けていないと、毎回同じ悩みを繰り返すことになります。

構造化プロンプトとショットリストは何が違うのか

私が整理している型は、二層に分かれています。

  • 上段:構造化プロンプト(設計図)。テーマ・舞台・登場人物・スタイル・カメラワーク・音声・雰囲気を、項目ごとに分けて書きます。
  • 下段:ショットリスト(台本)。秒数ごとのカット割りです。導入(場所の提示)、核心(表情や感情)、推進(行動と変化)、余韻(記憶に残す締め)、という流れで時間を区切ります。

この二層に分ける意味は、使い回せる部分と、毎回変える部分を分離できることにあります。設計図側(舞台・人物の見た目・雰囲気)はキャンペーンが変わってもほとんど固定できます。台本側(何秒で何を見せるか)だけを、その回のメッセージに合わせて差し替えれば済みます。ここを分けずに一つの文章にまとめてしまうと、少し内容を変えたいだけなのに全文を書き直す羽目になり、結局また「ゼロから」に戻ってしまいます。

設計図をさらに細かく管理したい場合は、作品全体の条件・使う素材・時間軸・場面の切り替え方・音声という五つの階層に分けて書くやり方もあります。階層を分けておくと、「音だけ差し替えたい」「尺だけ変えたい」といった部分修正が、他の階層に影響を与えずに済みます。全部を一つの文章に詰め込まないこと自体が、修正のしやすさに直結するという点は、二層構造でも五階層構造でも変わりません。

台本側の差し替え例として、同じ海の映像でも「見る・聴く・触れる・香る・感じる」という五感を章立てにした台本を使うことがあります。設計図(舞台や人物)は変えず、台本の章立てだけをテーマに合わせて組み替える、という考え方です。設計図を固定したまま台本の切り口を変えるだけで、同じ資産から違う印象の動画を作れることが、現場で分かった実感です。

天然水族感ツアーの動画づくりで分かったこと

ここからは、私が天然水族感ツアーの動画プロンプトを整理する中で実際に判断してきたことです。

舞台は固定し、迷う時間を減らす 舞台は糸満の大度海岸(通称ジョン万ビーチ)を基本にしています。リーフと岩礁、白い砂浜が共存する地形、透明度の高い浅瀬、遠景にリーフの白波ライン、という条件を毎回同じように指定します。舞台をゼロから考えないだけで、残りの時間を「今回何を伝えたいか」に使えるようになります。

登場人物の見た目としゃべり方を固定し、量産感を避ける 動画生成AIは似た見た目のキャラクターを量産しがちです。そこで、クマノミ役は語尾「さー」、ウミガメ役は語尾「くお」、相川(オーシャン)役は黒ウェットスーツにサングラスという装い、と固定しています。ハロウィン風やヒーロー風、情熱大陸風など、テーマや番組パロディの形式を変えても、語尾と衣装だけは変えません。見た目が多少ぶれても、語尾としゃべり方が同じなら「あのシリーズだ」と伝わる、という判断です。テレビ番組のパロディは見せ方のバリエーションを増やすための台本側の工夫であって、登場人物という設計図側の骨格はどの回でも動かさない、という線引きをしています。

尺は基本の部品を決めておく 基本の尺は十五秒、次に三十秒です。SNS向けには縦型、広告やホームページ埋め込み向けには横型、と使い分けます。生成AIによっては一本で作れる長さに上限があるため、長尺を一気に作ろうとせず、十五秒単位の部品を複数つないで組み立てる前提で考えるようにしています。長い動画を一発で狙うより、短い部品を積み重ねる方が、やり直しの範囲も小さくて済みます。尺の上限はツールによって変わるので、「このツールは何秒まで出せるか」を先に確認してから台本を割り付ける、という順番を守るようにしています。

「避けたいもの」を先に書いておく ロゴや読める看板、不自然な文字、危険に見える入水の仕方(走って海に入る、深場で無装備など)は、できてから直すのではなく、指示の段階で「入れない」と先に明記しています。天然水族感ツアーは「ボート不要、ビーチから直接入水できる」ことを伝えたい意図があるため、ボートが映り込むこと自体も避けるべき要素に入れています。先に避けたいものを決めておくと、生成してから「これは違う」と気づいて作り直す手戻りが減る、というのが現場で分かったことです。

文字は後入れにする 日本語のテロップは、動画生成AIの中では崩れやすく、文字化けした看板のような仕上がりになりがちです。そこで、生成の段階では音声(ナレーションやセリフ)を軸にして作り、テロップは編集の段階で別に重ねる、という役割分担にしています。生成AIに全部をやらせようとせず、得意な部分と苦手な部分を分けるという考え方です。

審査で弾かれたときの直し方 生成AIに出す指示が、意図していないのに審査に引っかかることがあります。その場合は、登場人物の年齢や服装を具体的に書き直す、固有名詞や特定の店を想起させる表現を中立的な言い方に置き換える、といった直し方をしています。表現を曖昧にしたまま押し通そうとするより、具体的に書き直したほうが通りやすい、というのが私の実感です。

動画制作を仕組みにすると何が変わるのか

動画制作を部品化しておく一番の効果は、人が変わっても同じ骨格で作業を引き継げることだと考えています。舞台・人物・避けたいものが言葉になっていれば、担当者の頭の中だけに型が残る状態を避けられます。人手が足りない時期に新しい動画を一から考え直す余裕がなくても、台本側だけを差し替えれば形になる、という状態をつくっておけることが、仕組み化の意味だと私は捉えています。

逆に言えば、型を文字にしていない間は、動画制作は「その人がいないと回らない作業」のままです。売上や工数の仕組みとして見直すなら、動画そのものの良し悪しより先に、「変わらない部分が言葉になっているかどうか」を点検する方が近道だというのが、私がこのやり方を続けてきての判断です。

今すぐできる一歩

いきなりYAMLという書式を覚える必要はありません。まずは紙でもメモでも構わないので、自分の動画で「変わらない部分」を書き出してみてください。

  • 舞台(場所・季節・時間帯)
  • 主役となる人物やキャラクターの見た目・話し方
  • 基本の尺(短尺か、少し長めか)
  • 入れたくないもの(映したくない背景、やらせたくない動き)

この四つを一度言葉にしておくだけで、次に動画をつくるときの「考える時間」がぐっと減ります。案件ごとに変わるのは、たいてい「今回何を伝えたいか」という一点だけです。変わらない部分と変わる部分を分けておくこと自体が、動画制作を仕組みに変える最初の一歩です。

よくある質問

Q. YAMLという書式を知らないと構造化プロンプトは作れませんか。 A. 書式そのものを厳密に守る必要はありません。「舞台」「人物」「時間配分」「音声」「避けたいもの」という項目を箇条書きにするだけでも、同じ効果があります。大事なのは項目を分けて書くことで、書式は手段にすぎません。

Q. 動画生成AIごとに指示を作り直す必要がありますか。 A. ツールによって得意不得意があるので、骨格(舞台・人物・雰囲気といった設計図の部分)は共通で使い回し、ツールごとの書き方の違いだけを調整する、という二段構えにしています。骨格から作り直すと、結局ゼロからになってしまいます。

Q. 外部に動画制作を依頼する場合でも意味がありますか。 A. あります。依頼する側が「変わらない部分」を先に言葉にして渡せれば、発注のたびに一から説明し直す手間が減ります。依頼先が変わっても、型が手元にあれば引き継ぎやすくなります。

Q. 生成した動画が審査で弾かれたときはどうすればいいですか。 A. 表現を曖昧にしたまま押し通そうとせず、年齢や服装、状況を具体的に書き直すようにしています。固有名詞や特定の場所を想起させる言い方は、中立的な表現に直すと通りやすくなります。

まとめ

  • 動画プロンプトを舞台・人物・時間配分・音声・避けたいものという部品に分けると、毎回の判断が減り、工数が安定します
  • 「設計図(構造化プロンプト)」と「台本(ショットリスト)」を分けることが、仕組み化の起点です
  • 避けたいものを先に明記しておくと、できてから直す手戻りを防げます

動画制作に限らず、「毎回考え直している作業」は仕組みに変えられる可能性があります。自分の仕事のどこが「ゼロから」になっているのか、まずは三十分、仕事の流れを一緒に整理してみませんか。なんくるないさ、焦らず一つずつ型にしていきましょう。

関連記事

#動画制作#プロンプト設計#仕組み化

沖縄ビジネスAIラボ 公式LINE

読んで見つけたヒントを、明日の仕事へ。

相川浩一の読みものやAIの活用ヒントをLINEでもご案内します。「うちの仕事ならどう使う?」という質問や、読んだ感想も気軽にどうぞ。

仕事に活かせる読みものを受け取る

友だち追加後に「雑誌」と送ると、「週刊相川浩一」の読みもの案内が届きます。

読みもの・活用ヒントの受け取りは無料。質問だけでも歓迎です。

相談内容・メール窓口を見る →