観光・BtoCの実務

新規客をリピーターにする親子別設計

新規のお客様をリピーターにするには、申し込みを決める「親の合理脳」と、体験中に心を動かされる「子の感情脳」を、別々の言葉で設計することだと私は考えています。合理脳には安心材料を、感情脳には感動する瞬間を用意し、体験の終わりに記録・再接触・共有の三つを仕込む。この順番を外さないことが、次の予約と紹介につながると、糸満での体験設計を通して見えてきました。

なぜ親子を同じ言葉で口説くと失敗するのか

家族向けの商品は、予約を決める人と、実際に体験する人が別人であることがほとんどです。親が予約ボタンを押し、子どもが満足度を決める。この二人を同じコピーで口説こうとすると、どちらにも中途半端な言葉になります。

親の合理脳に刺さる言葉と、子の感情脳に刺さる言葉は種類が違います。合理脳が欲しいのは「評価」「設備」「時間」「送迎」といった、比較してすぐ安心できる事実です。感情脳が欲しいのは「泳げない子が海で笑った」「帰り道に『また来たい』と言った」という、未来の情景が見える物語です。この二つを一枚のコピーに詰め込むと、事実と物語がぶつかり合い、どちらの脳にも届きません。

もう一つの理由は、感情には順番があることです。私が体験設計で使っている骨格は、不安から始まり、安心、ワクワク、没入、感動、余韻へと移っていく流れです。この順番を飛ばしたり逆にしたりすると、途中で心が置いてけぼりになります。特に家族連れは「子どもが怖がらないか」「自分が足を引っ張らないか」という不安を最初に抱えているので、安心を飛ばしてワクワクだけを見せても響きません。親の不安を先に言語化してから、子の笑顔へつなぐ。この順番こそが、リピートと紹介の土台になります。

ここで大事なのは、親の不安は一枚岩ではないという点です。「設備が不安」「経験が不安」「お金が不安」という表層の不安の下に、「子どもに嫌な思いをさせたらどうしよう」「自分が邪魔になったらどうしよう」という、もう少し深い不安が隠れています。安心材料を並べるだけで終わらせず、この深い部分に触れる一言を添えられるかどうかで、同じ安心訴求でも効き方が変わると私は見ています。

天然水族感で実践している親子別設計

私が糸満の大度海岸で動かしている天然水族感ツアーは、小さな子どもから年配の方まで、同じ目線・同じ海・同じペースで楽しめることを核にしています。他のマリンスポーツでは年齢制限がかかりやすいところを、あえて三世代が同じ体験を共有できる設計にしているのは、家族それぞれの立場に別々の言葉を用意できるからです。

親の合理脳に向けては、評価の可視化、設備の充実、送迎を含めた短時間での完結といった、比較してすぐ判断できる事実を前面に出します。迷っている親が最後に背中を押されるのは、こうした「失敗しない根拠」です。

一方、親の感情脳と子の感情脳には、別の言葉を用意します。「泳げない子が海で笑った」「子どもが帰り道に『また来たい』と言った」というストーリーは、合理的な比較では動かない部分に働きかけます。パパ(父親)側には、コスパへの納得、自分のおかげで子どもが喜んだという満足感、波のない安心感、段取りが崩れない効率、そして「本物の体験をさせる親はかっこいい」という自己肯定感。こうした複数のスイッチを、一つの訴求に混ぜずに置いておきます。

体験そのものの中では、ガイドの関わり方も設計の一部です。前を歩かず、後ろからついていかず、横にいる。これが私たちの言う伴走型のガイディングです。魚を見せるのではなく「どんな動きをしてる?」と問いかける。発見は本人の中から生まれたほうが記憶に残るという考え方です。子ども向けには、見たもの・聞こえた音・さわったもの・心で感じたことを振り返る感性ジャーナルのようなワークを用意し、体験を言葉にして固定させます。

そして体験の最後に、必ず置いているのが「これ、誰に一番話したいですか」という問いかけです。感動は結果ではなく気づきなので、「自分にもできた」という言葉を本人の口から出させることが、記憶を固定し、次の紹介につながると私は見ています。写真や動画で記録し、LINEなどで再接触し、誰かに話すきっかけを作る。この記録・再接触・共有の三点セットが、新規のお客様を一回きりで終わらせない仕掛けです。

どこで判断が分かれるのか

同じ親子別設計といっても、現場によって重みの置き方は変わります。私が整理に使っている分岐の目安は次の通りです。

状況優先して設計する側理由
初めての予約で比較検討中親の合理脳評価・設備・時間が比較材料として先に見られるため
予約は決まり、当日を迎える前親の感情脳不安の言語化がないと、当日ワクワクへ移れないため
体験の最中子の感情脳子どもの表情が親の満足度をそのまま左右するため
体験の終わり親子両方記録・再接触・共有は、どちらが欠けても次につながらないため

この表で見えるのは、親の合理脳と子の感情脳は「同時に全部満たす」ものではなく、時間軸で主役が入れ替わるという点です。予約前は合理脳、当日は感情脳、終わりはまた両方。この入れ替わりを意識しておくと、どの場面でどの言葉を使うべきかで迷いにくくなります。

もう一つの分岐は、商品の値ごろ感によるものです。比較的気軽に申し込める体験であれば、合理脳の安心材料は最小限で構いません。逆に、家族の予定を大きく動かして申し込むような体験ほど、合理脳向けの安心材料を厚めに用意したほうが、最後の決断を後押ししやすくなります。どちらが正しいということではなく、自社の商品が家族の意思決定の中でどれくらいの重みを持つかで、配分を変える判断軸として使っています。

今すぐできる一歩

現場で使う体験に当てはめるなら、次の手順で整理することをおすすめします。

一. 現場で使う商品で「予約を決める人」と「体験する人」が誰かを書き出す(同じ人の場合もあります) 二. 決める人に向けた安心材料(評価・設備・時間・送迎など、事実で言える部分)を一枚にまとめる 三. 体験する人が感動する瞬間を一つだけ決め、その瞬間に向かって体験の流れを組む 四. 体験の終わりに、振り返りの問いかけ(「今日一番心に残った瞬間は?」「これを誰に話したい?」)を一つ入れる 五. 体験後の接触手段(写真・動画・LINEなど)を一つだけ用意し、記録と再接触につなげる

一度にすべてをやろうとせず、まずは四番目の「終わりの問いかけ」から始めるのが現実的です。スタッフが一言付け加えるだけでできるので、仕組みを作り変える前に試せます。

試してみて反応が薄いと感じたときは、問いかけの文言よりも先に、その手前の体験設計を疑うことをおすすめします。「今日一番心に残った瞬間は?」と聞かれても答えが出てこないのは、体験の中に「感動する瞬間」が一つに絞られていないことが多いからです。あれもこれも見せようとして、記憶に残る山場がぼやけていないか。問いかけを直す前に、体験の流れそのものを一度見直す価値があります。

よくある質問

Q. 親子両方に同じページで訴求してもいいのでしょうか

同じページで構いません。ただし言葉のブロックを分けることが大切です。上段に合理脳向けの事実(評価・設備・時間)、別のブロックに感情脳向けのストーリーを置くと、どちらの読み手も自分向けの言葉にたどり着きやすくなります。一つの文の中で事実と物語を混ぜないことが、ブロックを分ける以上に効いてくると私は感じています。

Q. スタッフが毎回同じ問いかけをするのは不自然ではありませんか

問いかけは「褒める」ためではなく「本人に気づかせる」ためのものです。同じ問いでも、答えるのは毎回違うお客様なので、答えそのものは毎回変わります。スタッフ側が台本のように感じても、お客様にとっては初めての問いかけであることを忘れないことが大切です。

Q. リピーターと紹介、どちらを先に設計すべきですか

記録・再接触・共有の三点は、リピーターと紹介を同時に設計する仕組みです。記録は本人の再訪のきっかけになり、共有は別の誰かの新規予約のきっかけになります。どちらか一方を選ぶのではなく、体験の終わりにこの三つをまとめて仕込む設計にすると、両方の入口が同時に開きます。

Q. 子どもが小さすぎて振り返りの問いかけに答えられない場合はどうすればいいですか

言葉で答えられない年齢の子どもには、絵で描かせる、指差しで選ばせるなど、言語以外の表現方法に置き換えることをおすすめします。大事なのは質問の形式ではなく、「体験の中から一つを選んで表現する」という行為そのものです。その様子を親が見ている時間こそが、親の感情脳に残る瞬間になります。

Q. 安心材料を並べすぎるとかえって不安をあおりませんか

その可能性はあります。安心材料は「聞かれたら答えられる」程度に用意しておき、最初から全部を並べ立てる必要はありません。合理脳が欲しいのは安心できる根拠であって、不安の種を次々に見せられることではないからです。迷っている親が自分から確認したくなる項目だけを、見つけやすい場所に置いておく方が、押しつけにならずに済みます。

まとめ

  • 新規のお客様をリピーターにするには、予約を決める「親の合理脳」と体験で心が動く「子の感情脳」を別々の言葉で設計する
  • 感情は不安から安心、ワクワク、没入、感動、余韻という順番で動くため、途中を飛ばさずに通す
  • 体験の終わりに記録・再接触・共有を仕込むことが、次の予約と紹介につながる

現場で使う体験に当てはめて、どこから手を付けるか整理したいという方は、まず終わりの問いかけ一つから試してみてください。でーじ焦らず、小さく試して、手応えのあるところから広げていくのが近道だと私は考えています。

関連記事

#感情設計#リピーター#家族向け集客

沖縄ビジネスAIラボ 公式LINE

読んで見つけたヒントを、明日の仕事へ。

相川浩一の読みものやAIの活用ヒントをLINEでもご案内します。「うちの仕事ならどう使う?」という質問や、読んだ感想も気軽にどうぞ。

仕事に活かせる読みものを受け取る

友だち追加後に「雑誌」と送ると、「週刊相川浩一」の読みもの案内が届きます。

読みもの・活用ヒントの受け取りは無料。質問だけでも歓迎です。

相談内容・メール窓口を見る →