観光・BtoCの実務 一次情報

観光マーケティングは「何を売るか」より「誰の、どんな感情を動かすか」

観光事業者の方から、よくこんな相談を受けます。

「SNSをやった方がいいですか?」
「ホームページを作り直した方がいいですか?」
「Instagramをもっと更新した方がいいですか?」

もちろん、どれも大切です。

でも私は、その前に考えなければいけないことがあると思っています。

誰に、何のために、自分たちのサービスを届けるのか。

これは海の体験だけの話ではありません。宿泊、飲食、アクティビティなど、沖縄の観光ビジネスすべてに共通する話です。そしてAI時代には、この「誰の、どんな感情を動かす会社なのか」が、これまで以上に重要になります。

「シュノーケリングをしたい」が本当の目的なのか

例えば、私たちが提供している海の体験を考えてみます。

サービスのカテゴリーは「シュノーケリング」です。

でも、小さな子どもを連れて沖縄旅行に来たお父さん、お母さんは、本当にシュノーケリングをすること自体が目的なのでしょうか。

私は、少し違うと思っています。

  • せっかく沖縄に来たのだから、子どもに本物の海を見せてあげたい
  • 水族館や動画で見た魚を、自分の目で見せてあげたい
  • ウミガメを見たときの子どもの顔を見たい
  • 家族みんなで、ずっと記憶に残る思い出を作りたい

おそらく、こういう気持ちが先にあります。

つまり、目的は「家族の思い出」や「子どもの体験」であって、シュノーケリングはそれを実現するための手段の一つです。

ここを間違えないことが、観光マーケティングではとても大切です。

「やりたい」のすぐ後に「でも……」がやってくる

お客様の気持ちをもう少し深く見ていくと、「子どもに体験させてあげたい」というワクワクのすぐ後に、必ずと言っていいほど「でも」が出てきます。

  • でも、私が泳げない
  • でも、子どもがまだ小さい
  • でも、沖縄の海は初めてだから怖い
  • でも、本当に安全なのだろうか
  • でも、スタッフはちゃんと子どもを見てくれるのだろうか

ここが、ものすごく重要です。

お客様が「やりたい」と思っていても、この「でも」が解決されなければ予約には進みません。

だからホームページで最初にやるべきことは、サービスの素晴らしさを一方的に説明することではありません。お客様の「でも」を、一つずつ解決してあげることです。

例えば「初心者歓迎」と一言書くだけでは、不安は十分に消えません。

どのくらい浅い場所から始めるのか。泳げない人にはどう付き添うのか。小さな子どもにはどんな器材を用意するのか。万一怖くなったら、どの時点でやめられるのか。

お客様が頭の中で想像している不安に、具体的な場面と言葉で答える必要があります。

感情が変わった次に必要なのは「動線」

不安が解消されると、お客様の感情は変わっていきます。

やってみたい
↓
でも不安
↓
なるほど、それなら安心
↓
ここなら任せられそう
↓
やってみたい!
↓
予約する

ところが、「予約しようかな」と思った瞬間に、予約方法が分からない、ボタンが見つからない、入力項目が多すぎる、といったことが起きると、お客様は離れてしまいます。

だからマーケティングは、広告だけでもSNSだけでもありません。

私は、お客様の感情の変化に合わせて、必要な情報と行動できる仕組みを用意することだと考えています。

ホームページも、SNSも、口コミも、予約システムも、その流れをつくるための道具です。

SNSやホームページは「目的」ではなく「手段」

「Instagramをやれば集客できますか?」

この質問だけでは、本当は答えられません。InstagramもホームページもAIも、全部手段だからです。

その前に、次のことを明確にする必要があります。

  1. 自分たちは誰のための会社なのか
  2. その人のどんな困りごとを解決するのか
  3. どんな体験や感情を提供するのか
  4. なぜ他ではなく、自分たちなのか

つまり、マーケティングの前に「ブランド」と「コンセプト」があります。その土台ができて初めて、ホームページやSNSが力を持ち始めます。

AI時代だからこそ「何の専門家なのか」を明確にする

これから旅行者は、検索窓に短い単語を入れるだけでなく、AIにこんな相談をするようになります。

  • 3歳の子どもと沖縄で海遊びをしたい
  • 泳げない親でも安心して参加できるシュノーケリングは?
  • 三世代で楽しめる沖縄の自然体験は?

そのとき企業側に必要なのは、流行のAI対策だけではありません。

「私たちは誰の、どんな問題を解決する専門家なのか」を明確にし、ホームページで具体的に表現しておくことです。

例えば、「安全に配慮しています」だけで終わらせず、泳げない方にどのように接しているのか、小さな子どもにどんな声をかけているのか、現場で実際に起きた不安をどう解決したのかを書く。

そうした一次情報を積み重ねることで、人にもAIにも「この会社は、この分野に具体的な経験と専門性を持っている」と理解されやすくなります。

マーケティングのスタート地点は「お客様を見ること」

SNSから始めるのではありません。ホームページからでも、AI対策からでもありません。

まず考えるのは、次の2つです。

誰に来てほしいのか。
その人は何を望み、何を不安に感じ、何が解決されたら行動するのか。

お客様の感情を理解し、その感情に沿って情報、体験、予約までの仕組みを作る。それが観光マーケティングの基本だと私は思っています。

シュノーケリングも、SNSも、ホームページも、AIも、その目的を実現するための手段です。

目的と手段を間違えない。

ここから始めるだけでも、観光事業者のマーケティングは大きく変わります。

今すぐできる一歩

自社の一番売りたい商品を一つ選び、紙に次の3行を書いてみてください。

  1. お客様が本当に得たい感情や未来は何か
  2. 「やってみたい」の直後に出てくる「でも」は何か
  3. その「でも」に、ホームページ上で具体的に答えられているか

答えられていない「でも」が一つ見つかったら、まずその説明を追加してください。新しいSNSを始めるより、予約に近い改善になるかもしれません。

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