事故が起きないツアーは何が違うのか。答えは設計
体験事業の安全は、現場スタッフの注意力だけに頼らず、事前の「設計」と当日の判断を重ねて守ります。糸満マリンセンター(IMC)・シートラベラー・ジョン万パークの運営で扱ってきた安全確認をもとに、「技術安全」「心理安全」「装備安全」の三つの観点からチェック項目を紹介します。
なぜ「レスキュー訓練」だけでは足りないのか
多くの現場が力を入れるのは「事故が起きたときにどう対応するか」です。AED常備、応急処置訓練、緊急時の連絡フロー。これはもちろん必須です。でも私はそれを「20項目のうちの1つ」としか位置づけていません。
なぜかというと、レスキューは「事故が起きてしまった後」の話だからです。事故が起きない現場は、その前の段階、つまりお客様が不安を感じないように設計された状態を先につくっています。私はこれを「心理的安全性」と呼んでいます。泳げない人、初心者、2歳から80代までの3世代のお客様に対して、不安を減らす設計を先に積んでおくと、パニックによる事故そのものが起きにくくなります。
事故対応力と事故予防力は別のものです。体験事業の経営者が最初に見直すべきは、後者です。
現場で使っている安全対策20選
以下は、私がジョン万ビーチ(大度海岸)を主戦場に33年の現場経験で固めてきたプロトコルです。技術安全・心理安全・装備安全の三層で分けています。
| 層 | 項目 |
|---|---|
| 技術安全 | 天然防波堤があり波の入らないビーチの厳選、毎朝の海況判断(風・波高・潮回り)、当日の体調確認と器材説明、プロガイドによる器材フィット調整、足のつく浅瀬からのビーチエントリー、天候急変時の予備プラン |
| 心理安全 | 短い足ヒレの採用(海面での立ち上がりで溺れ防止)、水が入りづらいシュノーケルの採用、子供・初心者対応講習を受けたガイドのポジティブ対応、足が立つ場所での休憩、付添い・寄添い、シニアでも参加できる動線 |
| 装備安全 | 2〜6歳向けの子供専用浮き具、保温・浮力・日焼け対策道具の無料レンタル(2歳〜)、身長80cm〜195cm・体重130kgまでの対応サイズ、AED常備とスタッフ全員の応急処置訓練、着替えテント・シャワーなどのファミリー設備、季節別ウェットスーツ、潮湯治設計 |
このリストの肝は「やりすぎがちょうどいい」という考え方です。1つや2つ揃えても差にはなりません。20項目を積み重ねたときに、初めて「事故が起きにくい現場」になります。
もう一つ、現場で徹底しているのが2025年6月施行の改正労働安全衛生規則に対応した熱中症対策です。屋外で作業するマリン事業者は対象で、違反すれば6か月以下の懲役または50万円以下の罰金という規定があります。私はWBGT(暑さ指数)を朝・昼2回測定し、28度以上で休憩を増やし、31度で重作業を禁止するルールを現場に置いています。30分に1回の水分補給、体調不良時のフロー(日陰へ移動→水分→意識不明なら119番とAED)も文書化して、年2回のロールプレイ訓練をしています。これも「事故が起きる前」の設計の一部です。
今すぐできる一歩
自社のツアーやサービスで、この20項目のうち「言語化できているものはいくつあるか」を数えてみてください。多くの現場は、感覚として持っているだけで、書き出していません。書き出していないものは、スタッフ間で共有できず、新人にも伝わりません。
一歩目としては、まず自分の現場の安全対策を紙に書き出すことです。技術安全・心理安全・装備安全の三層に分けて書くと、抜けている層が見えてきます。私の経験では、多くの現場が「技術安全」には強いのに「心理安全」が抜けています。溺れないための器材はあっても、不安にさせないための接客設計が言語化されていない、というケースです。
書き出したら、それをホームページやGoogleビジネスプロフィールに公開してください。安全対策を隠す理由はありません。むしろ「20項目以上を言語化している」ことそのものが、価格ではなく価値でお客様に選ばれる根拠になります。
まとめ
- 事故が起きない現場は「レスキュー力」より「予防設計」で差がつく
- 技術安全・心理安全・装備安全の三層で20項目を言語化し、書き出して初めて現場に浸透する
- 熱中症対策など法改正対応も「事故が起きる前」の設計の一部として組み込む
