観光・BtoCの実務

なぜ五感を言葉にするとリピーターが増えるのか

結論:五感を言葉にすると、体験は記憶になる

新規のお客様をリピーターにするには、価格や接客の丁寧さを積み上げるより先に、体験そのものを「五感で覚えている状態」にすることが近道だと私は考えています。見た・聞いた・香った・味わった・触れたという五感の記憶が強いほど、人は体験を他人に話したくなり、また戻ってきたくなります。私は糸満の天然水族感ツアーで、五感をひとつずつ言葉にして設計することを、リピーターづくりの土台にしています。価格を下げる、接客を増やすといった方法に手を出す前に、まずここを見直すべきだというのが私の結論です。

なぜ五感を明示的にコンセプト化するとリピートにつながるのか

人は体験の内容そのものより、その時に動いた感情で記憶します。感情は五感を通して強く刻まれます。見る・聞く・香る・味わう・触れる、この五つのどれかが際立った瞬間ほど、後から思い出しやすくなり、人に話したくなるのです。これは私が感情マーケティングの設計で使っている「体験から感情が生まれ、感情が記憶として定着する」という流れとも一致します。

逆に言えば、五感を意識せずに流れだけで組んだ体験は、満足度が高くても「何が良かったか」を言葉にしにくく、記憶に残りにくい傾向があります。お客様自身が「何が良かったのか」を言葉にできないと、人に勧めることも、もう一度来る理由を自分で作ることもできません。だからこそ、提供する側があらかじめ五感を一つずつ言葉にしておくことが重要になります。

感情の動き方にも段階があります。私が現場で意識しているのは、安心が生まれてから発見があり、発見のあとに緊張がほどけ、最後に記憶として固定されるという流れです。恐怖や不安から入って安心に変わる瞬間は信頼の土台になり、驚きや発見が加わると興味が深まり、緊張がほどけて無心になる瞬間に感動が乗りやすくなります。そして、同じものを一緒に見た・感じたという事実を言葉で確認し合うことで、体験が記憶として固定されます。五感はこの一連の流れを支える土台であり、順番を無視して五感だけを並べても効果は薄くなります。

もう一つの理由は、体験の後に「誰かに話したくなる状態」を作れるかどうかです。体験を終えた直後に、お客様の中で感情がまだ温かいうちに、記録に残す・もう一度連絡が取れる状態を作る・共有したくなる一言を添える、という三つの働きかけができると、記憶が余韻として残り、次の来店や紹介につながりやすくなります。これは接客の最後の瞬間の設計であり、体験の中身そのものと同じくらい重要な部分です。

さらに、体験の良し悪しは「体感時間」にも左右されます。楽しい時間や没頭している時間は短く感じられ、苦しい時間や退屈な時間は長く感じられます。五感を際立たせて没入を作ると、お客様の体感時間が短く感じられ、「もっといたかった」という余韻が生まれやすくなります。これも、体験の長さそのものより、五感の密度を整えることの方が重要である理由のひとつです。

天然水族感ツアーで五感をどう設計しているか

私が糸満市の大度海岸(ジョン万ビーチ)で運営している天然水族感ツアーでは、五感をひとつずつ短い言葉で割り当てることをコンセプト設計の軸にしています。

  • 視:色の数だけ、驚きがある
  • 聴:自分の呼吸だけが聴こえる世界
  • 嗅:鼻から海が入ってくる感覚
  • 味:海のあとの一口は、なぜこんなにうまいのか
  • 触:水に抱きしめられる感覚

この五つを別々に用意するのではなく、一本のツアーの中で順番に体験してもらうように組んでいます。順番の軸にしているのが、好奇心から始まり、解放感、畏敬の念、静寂へと移っていく感情の流れです。最初に海の中を観察して「なぜ」を感じてもらい、次に呼吸を整えて身体の力を抜いてもらい、外洋に近い広い景色で自分の小ささを感じてもらい、最後に静かな時間で内側の声を聴く時間を作る、という流れです。

この設計の特徴は、泳げない人や子ども、年配の方を置き去りにしないことです。天然水族感ツアーは三歳から八十歳まで、同じ目線で同じ海を同じペースで楽しめる設計にしています。三世代で同じ体験を共有できることが、家族の間で「あの時のこと」として語られる共通の物語を生みます。これもリピートや紹介につながる土台だと私は考えています。

ガイドの関わり方も五感の設計を支える要素です。私は案内役として、前を歩いて引っ張るのでも、後ろから見守るだけでもなく、横に並んで一緒に見るという立ち位置を意識しています。魚を見せるより「どんな動きをしているか」を問いかける方が、お客様自身の中から気づきが生まれやすくなるからです。同じものを一緒に見たという事実をその場で言葉にして確認し合うことも、記憶を固定する働きを持っています。

体験を振り返る時間も、五感の記憶を定着させる工程として組み込んでいます。子ども向けには、今日の海のようす・見たもの・聞こえた音・さわったもの・心で感じたこと・いちばん心に残った瞬間を絵で描く、という六項目の振り返りワークを使ったことがあります。体験した直後に五感を言葉や絵にしてもらうことで、記憶が本人の中でより強く固定されます。貸切の体験では、事前に好きな香り・音・色を聞いておき、その日の五感の演出に少しだけ反映させるという工夫も組み込んでいます。事前に好みを聞く一手間が、当日の体験を「自分のために用意された時間」という記憶に変えてくれます。

今すぐできる一歩:現場で使う体験を五感で棚卸しする

業種を問わず、現場で使う体験を五感で棚卸しする作業は今日から始められます。手順は次の四つです。

一. 現場で使う体験を五感に分解して書き出す — 視・聴・嗅・味・触のそれぞれで、お客様が何を感じているかを一語で書き出します。空欄になる感覚があれば、そこが伸びしろです。 二. 感情の流れに沿って並べ替える — 不安から始まり、安心、ワクワク、没入、感動、余韻へと向かう流れに、書き出した五感の要素を当てはめます。順番が逆になっていないかを確認します。 三. 体験の終わりに「誰に話したいか」を聞く一言を添える — 体験の記憶が温かいうちに、誰かに話したくなる問いかけを一つ用意します。これだけで紹介が生まれる確率が変わります。 四. 記録を残す仕組みを用意する — 写真や短いメモなど、体験の記憶を形に残す手段を一つ決めておきます。記録がないと、どれほど良い体験も時間と共に薄れます。

この四つは特別な設備も予算も要りません。現場のスタッフと一緒に、紙に書き出すだけで始められます。業種が変わっても、当てはめる場所が変わるだけで考え方は同じです。宿泊業であれば、客室からの景色が視覚、静けさや虫の声が聴覚、アメニティの香りが嗅覚、ウェルカムドリンクが味覚、寝具の肌触りが触覚にあたります。飲食業であれば、盛り付けが視覚、調理の音やBGMが聴覚、香りが嗅覚、味そのものが主役、器の質感が触覚です。サロンであれば、空間のデザインが視覚、施術中の音楽が聴覚、アロマが嗅覚、提供する飲み物が味覚、施術の手技が触覚にあたります。

棚卸しをしていると、五感のどこかが極端に弱いことに気づく場合があります。たとえば視覚と味覚は強いのに、聴覚と嗅覚がまったく設計されていない、というケースはよくあります。そのときは無理に五つ全部を均等に埋めようとせず、今ある強みに一つだけ要素を足すところから始めるのが現実的です。また、スタッフ同士で棚卸しの結果にズレが出ることもあります。同じ現場を見ていても、人によって「どこが良かったか」の感じ方は違うからです。この場合は、どちらが正しいかを決めるより、両方の意見を一度並べてから、お客様の立場で見たときにどちらが強く残るかを話し合うと整理しやすくなります。

よくある質問

Q. 五感のすべてを使わないと効果がないのでしょうか。 A. 五つ全部を均等に使う必要はありません。現場で使う体験の中で最も際立っている感覚から言葉にしていくのが現実的です。天然水族感ツアーでも、まず海という場の強みを生かせる視覚と触覚から言葉を作り、そこに聴覚・嗅覚・味覚を少しずつ足していきました。

Q. 高齢者や子どもがいる場合、設計を分けるべきですか。 A. 私は分けるのではなく、同じ体験を同じペースで共有できる設計を優先しています。天然水族感ツアーが三歳から八十歳まで同じ目線で楽しめる設計にしているのも、世代ごとの体験を分けるより、家族が同じ記憶を共有できることを重視しているためです。

Q. 五感の設計とリピーター施策は、どちらを先にやるべきですか。 A. 私は五感の設計を先に行うことを勧めます。連絡先を集める仕組みや再訪のきっかけ作りは重要ですが、体験そのものが記憶に残っていなければ、再接触しても響きません。まず体験を記憶に残る形にしてから、再接触の仕組みを重ねる順番が理にかなっています。

Q. 効果が出ているかどうかは、何を見て判断すればいいですか。 A. 売上の数字だけで判断しようとすると見えにくいので、私はまず「誰かに話したいか」という問いかけへの反応や、体験後の会話の中で五感に関する言葉が自然に出てくるかどうかを見ています。お客様自身が「あの音が良かった」「あの香りが忘れられない」と言葉にしてくれるようになれば、五感の設計が記憶として機能している手応えだと考えています。

Q. スタッフが複数いる現場で、五感の設計を統一するにはどうすればいいですか。 A. 言葉を先に決めておくことが近道です。天然水族感ツアーで「色の数だけ、驚きがある」のような短いコピーを五感ごとに用意しているのも、スタッフ一人ひとりの感覚に任せるのではなく、共通の言葉を道しるべにして案内できるようにするためです。言葉が決まっていれば、新しいスタッフが入っても同じ軸で体験を語ることができます。

まとめ

  • 新規のお客様をリピーターにするには、体験を五感で覚えている状態にすることが土台になります。
  • 五感を言葉にし、好奇心から静寂へ向かう感情の流れに沿って並べ替えることで、記憶に残る体験が作れます。
  • 体験の終わりに記録と一言の問いかけを添えることで、紹介と再訪につながる余韻が生まれます。

五感の棚卸しをやってみると、現場で使う体験のどこが強くて、どこが抜けているかが見えてきます。そこから先の、スタッフの動き方や予約の流れまで含めた全体の整理は、一人で抱えるより話しながら整理した方が早いことが多いです。もし現場で使う体験や仕事の流れを一度棚卸ししてみたいということであれば、サービス一覧からきっかけをお渡しできます。まずは現状を見てみたいという方は、URL診断からでも構いません。ちばりよー、少しずつ整えていきましょう。

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#リピーター施策#感情設計#体験設計

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