考え方

「誰に売るか」を先に決めない集客設計

この仕事を売上や工数の仕組みとして見直すなら、まず「誰に売るか」を先に決めないことです。先に「何を提供しているのか」という価値の中身を広げ直し、そのあとで「誰に」「どうやって」を決める。この順番を入れ替えるだけで、同じ現場・同じ人数でも扱える対象が広がり、工数の使い方も整理しやすくなります。私はこの考え方を、自分が動かしている事業で実際に試しています。

なぜ「誰に」より先に「何を」を広げるべきなのか

多くの会社が集客を見直すとき、最初に「誰に売るか」を決めます。年齢層、性別、地域、悩みの種類。ターゲットを絞り込むことが戦略だと教わってきたからです。ところが、ターゲットを狭めても、来店や予約の頻度は上がりません。頻度が上がらないということは、売上の天井が低いままだということです。

ここで有効なのが、マーケティング理論で言われる「Who・What・How」の順番を「What・Who・How」に入れ替える考え方です。先に「何を」を決めてしまうと、その「何を」が狭い言葉のままなら、後から誰に売るかを広げようとしても限界があります。逆に「何を」を本能に近い抽象的な言葉まで広げておけば、「誰に」は自然と広がります。

たとえば「体験」をどう言葉にするかで、対象になる人の範囲が変わります。「技術を教える教室」という言葉で止めてしまうと、技術を習いたい人にしか届きません。「人に自慢したくなる体験」まで言葉を広げると、技術の有無に関係なく人が集まる余地が生まれます。ここで言う「広げる」とは、サービスの内容を増やすことではなく、言葉の抽象度を上げることです。中身は変えずに、何を提供しているかの説明の仕方を変えるだけでも対象は広がります。

もう一つ押さえておきたいのは、競争の考え方です。「他店と同じ土俵で戦うより、新しいカテゴリーを自分で作ったほうが優位に立てる」という発想があります。既存の枠のままターゲットだけを絞り込むのは、狭い土俵で他店と競うことと同じです。「何を」を広げ直す作業は、競合と同じ土俵で戦わずに済む場所を自分で作る作業でもあります。

工数の面でも同じことが言えます。対象を絞り込みすぎると、一人ひとりへの対応がすべて個別対応になり、現場の負担が増えます。逆に「何を」の軸が一本通っていれば、Howの部分、つまり安全対策や説明の仕方、送迎の流れといった運用の仕組みは一つに揃えやすくなります。工数が増えるのは対象が広いからではなく、提供する価値の軸がぶれているからだということが多いです。

「何を」を言葉にするときの四つの軸

「何を」を広げると言っても、漠然と考えても言葉は出てきません。私が実際に使っているのは、提供している価値を四つの軸に分けて書き出す方法です。

軸問い役割
ユニークな価値他にはない、自分にしか言えない一言は何か市場での立ち位置を決める旗になる
根拠なぜその価値があると言えるのか言葉に説得力を持たせる
裏づけ積み重ねた経験や実績の何が信頼につながるか初めての人の不安を減らす
付随する価値値段・見た目・あると嬉しい部分は何か選ばれる決め手の一押しになる

この四つを順に埋めていくと、「技術を教える教室」のような作業名ベースの説明から、お客様の気持ちの変化が伝わる言葉へ自然に書き換わります。たとえば私が天然水族感ツアーで整理したときは、ユニークな価値を「泳げない人でも海の生き物を間近で見られる体験」、根拠を「大度海岸という遠浅の地形」、裏づけを「長年の現場経験から積み重ねた安全対策と心理面でのサポート」、付随する価値を「映像で思い出が残ること」という形で並べました。

ここで大事なのは、四つを埋める順番です。ユニークな価値から先に決めないと、根拠や裏づけが後づけの説明になってしまいます。先に「何を自慢していいのか」を一言で決めてから、なぜそう言えるのかを埋めていく順番が、言葉を広げる近道です。

小さな会社でWho/What/Howをどう使うか

私は沖縄ビジネスAIラボで、自分が動かしている天然水族感ツアー(糸満・大度海岸でのシュノーケリング体験)を題材に、この順番を入れ替える作業を実際にやってみました。

最初に置いていた「誰に」は、「泳げない人」でした。ここから出発すると、商品の説明は「泳げない人向けのシュノーケリング教室」という狭い言葉になります。これを一度脇に置き、「何を」を本能に近い言葉まで広げる作業をしました。「泳げない人向け教室」ではなく「海を怖がらずに、家族で楽しめる体験」まで言葉を広げると、対象は泳げない人だけでなく、小さな子どもを連れた家族や、年配の親を連れた三世代にも自然に広がります。

「どうやって」は、その広げた「何を」に対して、安全対策や説明の順番、送迎の流れを揃える作業になります。対象が広がったからといって、現場でやることがばらばらに増えるわけではありません。むしろ「海を怖がらずに楽しめる体験」という一本の軸があるおかげで、誰が相手でも同じ流れで案内できるようになります。

同じ考え方で、私は自分の事業内にある複数のブランド(天然水族感・シートラベラー・糸満マリンセンター)の役割分担も整理し直しました。すべてを同じ客層に向けて競わせるのではなく、観光で来た人向け、地元で長く使う人向け、初めて海体験をする人向けというように、用途ごとに棲み分ける考え方です。小さな会社でも、看板が一つしかなくても、サービスメニューや窓口を分けて「誰に何をどう届けるか」を分担させることはできます。

この作業で分かったのは、「誰に売るか」を先に決めてしまうと、その後の商品説明もオペレーションも、最初に決めた狭いターゲットに合わせて固定化されてしまうということです。先に「何を」を広げておけば、ターゲットも運用も後から調整しやすくなります。

広げたあとに工数を揃える視点

「何を」を広げると対象が増え、現場がばらばらになるのではと心配される方は多いです。私もここで一度つまずきました。対象を広げた結果、「安心して楽しみたい人」と「もっと冒険したい人」という、一見相反する要望が同じ現場に混ざるようになったからです。

ここで役に立ったのが、相反する要望を「どちらかを選ぶ」のではなく「時間や段階で分ける」という考え方です。たとえば「安心したい」と「冒険したい」という相反する気持ちは、同じ体験の中でも時間帯や深さを分けることで両立できます。最初は浅い場所で説明を丁寧にして不安を減らし、慣れてきたタイミングで少しずつ範囲を広げる。安全装備の見せ方も、最初は安心材料として、慣れてからは体験の一部として扱う。相反する要望は、どちらか一方を切り捨てるのではなく、順番や場面を分けることで両方とも満たせることが多いです。

この視点を持っておくと、「何を」を広げたことで現場が混乱するのではなく、むしろ一本の流れの中に相反する要望を組み込めるようになります。工数が増えるかどうかは、対象の広さではなく、この組み込み方を設計できているかどうかで決まります。

今すぐできる一歩とよくある質問

今日からできる一歩は、紙一枚で構いません。次の三つを順番に書き出してください。

一. いま自分が「何を提供しているか」を、サービス名や作業内容ではなく、お客様の気持ちや変化で言い換える 二. その言い換えた言葉で考えたとき、「誰に」届く範囲がどう広がるかを書き出す 三. 広がった「誰に」に対して、現場の作業(説明の順番、案内の流れ、安全確認など)を一つに揃えられるかを確認する

三十分あれば、この三つは一人でも書き出せます。書き出したものを他人に説明してみて、言葉が詰まるところがあれば、そこがまだ狭いままの部分です。

Q. ターゲットを広げると、かえって対応がバラバラになりませんか。 A. 「何を」の軸が曖昧なまま対象だけ広げると、その心配は現実になります。先に「何を」を一本の言葉に絞り込んでから「誰に」を広げると、現場の作業(Howの部分)は一つに揃えやすくなります。広げる順番を間違えないことが大事です。

Q. 既存のお客様に合わせて作った今の商品説明を、全部作り直す必要がありますか。 A. 中身を作り直す必要はありません。多くの場合、変えるのは説明の言葉だけです。提供している体験や商品はそのままに、何を提供しているのかの言い方を、具体的な作業名から、お客様の気持ちの変化が伝わる言葉に書き換えることから始めれば十分です。

Q. 「何を」を広げる作業は、一人でやっても意味がありますか。誰かと一緒にやるべきですか。 A. 一人でも紙に書き出す作業自体はできます。ただし、書いた言葉が本当に広がっているかどうかは、自分一人では判断しにくいところがあります。社内の人や、普段あまり接点のないお客様に説明してみて、言葉が狭く感じられないかを確認すると、抜け漏れに気づきやすくなります。

Q. 商品を増やさずに「何を」を広げることに違和感があります。中身を変えずに言葉だけ変えて意味があるのでしょうか。 A. 意味はあります。提供している体験や商品そのものは変えなくても、誰に何が伝わるかは言葉次第で大きく変わります。中身を増やすのは体力も時間も必要ですが、言葉の抽象度を上げる作業は今の現場のままでも始められます。まずは言葉を変えてみて、反応の変化を見てから中身を調整するという順番でも遅くありません。

まとめ

  • 仕組みの見直しは「誰に」からではなく「何を」から始める
  • 「何を」を本能に近い言葉まで広げると、対象もHowの運用も自然に整理しやすくなる
  • 工数が増えるのは対象が広いからではなく、提供する価値の軸がぶれているから

ここまで読んで、自分の仕事のどこから手をつければいいか迷う方は、まず三十分、今の仕事の流れを一緒に整理するところから始めませんか。棚卸しだけでも、次に何を変えればいいかが見えてきます。でーじ悩むくらいなら、紙一枚から始めてみてください。

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#マーケティング戦略#集客の仕組み化#森岡毅式

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