仕組み改善はなぜ疑うことから始まるのか
この仕事を売上や工数の仕組みとして見直すなら、答えはひとつです。やり方を変える前に、「当たり前になっている業務」を疑うところから始めてください。私はこれを、クリエイティブシンキングの三つのD(Doubt=疑う、Discover=発見する、Design=デザインする)という順番で整理しています。疑う段階を飛ばしたまま手を動かすと、改善は表面的な効率化で終わり、現場の負担はむしろ増えます。
なぜ「当たり前を疑う」ことが仕組み改善の最初の一歩なのか
予約が増えない、人手が足りない。こうした悩みに対して、多くの経営者はまず「やり方」を変えようとします。広告を増やす、スタッフを増やす、予約フォームを変える。しかし私は、やり方を変える前に「その仕事が、そもそも誰のための、何のための仕事なのか」を疑う段階を飛ばしてはいけないと考えています。
クリエイティブディレクターの細田高広氏の思考解放術では、想像力を阻む思考として次の三つが挙げられています。
- 枠内思考:決められた範囲の中だけで考えてしまう。「予約導線はホームページとOTAの二択」という前提そのものが枠です。
- パターン認識への依存:これまでの規則をそのまま当てはめてしまい、例外に気づけない。「繁忙期だから人を増やす」という発想が、別の解決策を見えなくしていることがあります。
- 過剰な分析:単純な問いを難しく考えすぎてしまう。「なぜお客様が来ないのか」を複雑な要因分析に落とし込みすぎて、現場で聞けば分かる答えを見失う状態です。
この三つは、実はAIが得意な領域でもあります。決められた枠の中で最適化する、過去のパターンから次を予測する、大量のデータを分析する。これらはAIに任せたほうが速く、正確です。だからこそ人間がやるべきことは、その枠自体を疑うこと、つまり「当たり前」に対して「本当にそう」とツッコミを入れることだと、私は整理しています。
工数の見直しも同じです。「この作業は昔からこうしているから」という理由だけで続いている業務ほど、疑う価値があります。疑った先に、別の選択肢を探すのがDiscover、見つけた選択肢を仕組みとして固定するのがDesignです。この三段階を踏まずに「とりあえずAIを入れる」「とりあえず人を増やす」という判断をすると、仕組みは変わらないまま負担だけが増えます。
疑う対象をどこから選ぶかで迷う場合は、二つの軸で一つずつ選ぶことをお勧めします。一つは「売上に直結している業務」、もう一つは「日々の負担として重くのしかかっている業務」です。両方から一つずつ選んで疑うと、売上の仕組みと工数の仕組みを同時に見直す土台ができます。片方だけを疑い続けると、売上は伸びたのに現場がさらに忙しくなった、あるいは楽になったのに売上は変わらなかった、という偏った結果になりやすいからです。
疑う対象が業務内容そのものではなく、組織の役割分担に関わることもあります。私はビジネス設計を見直すときのチェック項目として、「代表や特定の担当者に仕事が集中しすぎていないか」を必ず確認するようにしています。売上の仕組みだけでなく、工数の仕組みを同時に見直す理由はここにあります。売上を伸ばす施策だけを疑っていても、その施策を回す人が一人に偏っていれば、仕組みとしては脆いままだからです。
「解決」ではなく「解放」と問いかける――発想を縮めない言葉選び
三つのDを実際に使うときに、私が意識している言葉の選び方があります。「この問題を解決してください」と頼むと、相手の発想は無意識に縮みます。解決という言葉には「正解を出さなければいけない」という責任の重さが含まれるからです。一方で「可能性を解放してみよう」という言い方に変えると、間違ってもいいという前提が生まれ、発想が広がります。
チームで三つのDを使う場合、私は「疑う役」と「発見する役」を分けることを勧めています。片方に問題解決を丸ごと頼むと、安全な答えに落ち着きやすくなります。役割を分け、発見する側には「正しさより可能性を増やすこと」を求めると、出てくる選択肢の数が変わります。一人で三つのDを進める場合も、疑う時間と発見する時間を同じ時間に重ねないことが大切です。疑いながら同時に答えを探そうとすると、結局は今までのやり方の延長線上でしか考えられなくなります。
この言葉選びは、工数の仕組み見直しでも使えます。「このやり方の問題点を直して」と聞くと、現場のスタッフは既存のやり方を前提にした小さな修正しか出してきません。「このやり方をやめるとしたら、どんな方法が考えられるか」と聞き方を変えるだけで、出てくる答えの幅が変わります。問いの立て方そのものが、仕組み改善の成果を左右します。
天然水族感はどうやって生まれたのか――三つのDの適用
私は沖縄で「天然水族感ツアー」という体験事業を動かしています。このブランドのコンセプトを考えるときに、私は三つのDの考え方を当てはめるようにしています。
Doubtの段階 業界の当たり前は「シュノーケリングは泳げる人のための遊び」というものです。この前提を疑いました。泳げない人や三世代の家族は、本当に海の体験を諦めるべきなのか、という問いです。
Discoverの段階 疑った先に見えてくるのは、「泳げない人や高齢の家族のほうが、むしろ海の体験を強く求めているのではないか」という視点です。足がつく浅瀬で、水族館のように魚やウミガメを間近に見られるなら、泳げるかどうかは関係なくなります。これは、シュノーケリングという既存カテゴリーの中で工夫するのではなく、「天然の水族館」という別のカテゴリーを見つける発想です。Discoverの段階で大事なのは、実現可能かどうかをいったん脇に置くことです。できるかどうかを先に考えると、選択肢は自然と小さくまとまってしまいます。
Designの段階 発見した視点を、仕組みとして形にします。対象を「泳げない人専門」と明確に宣言する、三世代が同時に楽しめるようにフロートや導線を整える、安全対策を言葉にして見える化する。ここまでやって初めて、思いつきが商品や業務フローになります。Design段階で私が意識しているのは、「ガイド一人の経験と勘に頼っている部分はどこか」を洗い出すことです。経験と勘は現場の武器ですが、言葉になっていないままだと、その人が休んだ瞬間に対応できなくなります。洗い出した部分を手順として書き起こし、誰が対応しても同じ説明・同じ案内になるようにする。これがDesign段階の実質的な作業です。
この三段階を工数の視点で見ると、Design段階でやっていることは「属人的な判断のルール化」です。ガイドの経験と勘で対応していた部分を、あらかじめ言葉と手順にしておく。これができていないと、対応できる人が一人しかいない、という状態になり、仕組みではなく個人の頑張りに依存したビジネスになります。
疑う対象を事業の看板部分だけに限定しないことも大切です。接客の順番、予約確認の方法、お客様への説明の仕方。表に出ない作業ほど「当たり前」が固まりやすく、疑う余地が残っています。看板部分はお客様の目に触れるため自然と疑われやすいのですが、裏側の事務作業は「誰も見ていないから」という理由で何年も手つかずのままになっていることが多いと、私は現場で感じています。
今すぐできる一歩は何か――三つのDを自分の仕事に当てはめる手順
抽象的な話で終わらせないために、手順を分解します。紙一枚とペンがあれば、経営者一人でも始められます。
| 段階 | 問いの立て方 | 具体的な行動 |
|---|---|---|
| Doubt(疑う) | この仕事は、本当にこのやり方でなければいけないのか | 日常業務を一つ選び、なぜそうしているのかを書き出す |
| Discover(発見する) | ひょっとして、別のやり方や別の対象があるのではないか | 今のやり方をやめたら困る人と、困らない人を分けて考える |
| Design(デザインする) | これを仕組み・ルール・手順として固定するとしたらどう書くか | 担当者が変わっても同じ対応ができるよう、言葉にして残す |
ポイントは、Doubtの対象を「難しそうな問題」ではなく「当たり前すぎて疑っていなかったこと」に向けることです。予約対応の方法、価格の決め方、スタッフの配置、お客様への説明の順番。どれも「ずっとそうしてきたから」で続いている可能性があります。
もう一つのポイントは、DiscoverとDesignを分けて考えることです。発見した段階でいきなり仕組みに落とそうとすると、アイデアが小さくまとまってしまいます。まずは実現可能性を気にせず選択肢を広げ、そのあとで仕組みに落とす、という順番を守ることを私は意識しています。選択肢を出す段階と、選ぶ段階を同じ時間にやらないことが、発想を縮めないコツです。
Doubtの段階で「理由がすぐに言えない」業務が複数見つかった場合は、無理に一度で全部を見直そうとせず、まず一つに絞ることをお勧めします。複数を同時に疑い始めると、Discoverの段階で選択肢が多すぎて整理しきれなくなり、結局どれもDesignまで進まないまま終わってしまうことがあるからです。迷ったときは、先ほどの二つの軸、「売上に直結しているか」「毎日の負担として重いか」に戻って一つを選び直してください。
よくある質問
Q. 当たり前を疑うと言われても、何から疑えばいいか分かりません。 A. 「忙しいから仕方ない」と思っている業務から始めるのがおすすめです。忙しさの正体は、多くの場合、疑われていないルールの積み重ねです。一つだけ選んで、「なぜこれをやっているのか」を自分に聞いてみてください。理由がすぐに言えない業務ほど、疑う価値があります。
Q. 疑う対象がいくつも見つかったとき、どれから手をつければいいですか。 A. 「売上に直結しているか」と「毎日の負担として重いか」の二つの軸で順位をつけてください。両方に当てはまる業務があれば、そこから始めるのが効率的です。どちらか一方しか当てはまらない業務は、最初の一つを仕組みにしてから着手しても遅くありません。
Q. 三つのDは一人でもできますか。 A. できます。チームで行う場合は、疑う役と発見する役を分けると効果的です。片方に「問題を解決して」と頼むと発想が縮みますが、「可能性を解放してみよう」と頼むと、責任が軽くなる分だけ発想が広がります。一人で行う場合も、Doubtを考える時間とDiscoverを考える時間を分けるだけで、同じ効果が期待できます。
Q. 代表や特定の担当者に仕事が集中しているかどうかは、どう確認すればいいですか。 A. 「自分や特定の担当者が一週間不在にしたら、止まってしまう業務は何か」を紙に書き出してみてください。止まる業務が複数出てきたら、それはDesign段階で優先的にルール化すべき対象です。手順として言葉にできていない業務ほど、一人の頭の中にしか残っていません。
Q. AIに任せられる部分はどこですか。 A. パターンの分析や、決められた枠の中での最適化はAIが得意な領域です。一方で「そもそもその枠は正しいのか」を疑う部分は、現場を知っている人間にしかできません。役割を分けて使うのが現実的だと考えています。
Q. 三つのDを試してみても、何も変わらなかったらどうすればいいですか。 A. Doubtの対象が小さすぎる可能性があります。「このやり方は正しいか」ではなく、「この仕事そのものが必要か」まで疑いの範囲を広げてみてください。それでも変化が見えないときは、一人で抱え込まず、第三者に業務の流れを見てもらうことも選択肢になります。
まとめ
- 売上や工数の仕組みを見直すときは、やり方を変える前に「当たり前」を疑う段階から始める
- 疑う(Doubt)、発見する(Discover)、仕組みにする(Design)の三段階を分けて進めると、発想が縮まらない
- Design段階では、属人的な判断を言葉と手順に落とすことで、特定の人への依存を減らせる
自分の仕事のどこを疑えばいいのか分からない、という方は、業務の一覧を紙に書き出すだけでも、疑うべき場所は見えてきます。ちばりよー。
