なぜNiraiCardは「自分でスキャンさせない」のか
引き出しを開けると、輪ゴムで束ねた名刺が入っている。交流会でもらった分がそのまま。「いつか整理しよう」と思って、たぶん2年経っている。
——という話を、経営者の方から何度も聞きました。私自身もそうでした。
名刺管理アプリは、世の中に山ほどあります。無料のものも優秀なものもあります。それでも名刺は溜まったままです。なぜでしょうか。
結論:続かない原因は機能ではなく、「自分でスキャンする」という前提
名刺管理アプリを比較すると、たいてい機能の話になります。OCRの精度、検索の速さ、連携できるサービスの数。
でも、溜まった名刺が減らない理由は、そこではありません。
どのアプリも「自分でスキャンする」が前提だからです。
500枚の名刺を撮る。1枚2秒でも、順番に並べて、めくって、撮って、確認して……現実には数時間かかります。その数時間が取れないから、山はそのまま残ります。
アプリを変えても、この数時間は消えません。 だから乗り換えても続かない。機能の問題ではなく、構造の問題です。
だから、送ってもらうことにしました
私たちが作ったNiraiCardは、あなたがスキャンしません。
封筒に入れて送っていただければ、沖縄のスタッフが全件読み取って、整えてお返しします。
言葉にすると、拍子抜けするほど単純です。技術的にすごいことは何もしていません。でも、「やりたくてもできなかったこと」を引き受けているのはここだけです。
他のアプリは、モヤモヤをあなたに返します。「さあ、撮ってください」と。 私たちは、モヤモヤごと引き受けます。
これはスペックの話ではなく、誰が面倒を持つかの話です。そして商売において、面倒を引き受ける側に価値が生まれます。
名刺のスキャン代行は、実は昔からやっていました
種明かしをすると、これは思いつきではありません。
私たちはもともと、書類のスキャン代行を長くやってきた会社です。レターパックで送っていただいて、電子化して返す。この流れは10年以上回してきた既存業務でした。
つまり、新しく作ったのは「送ってもらう仕組み」ではなく、送られてきた名刺をAIでどう活かすかの部分だけです。
新規事業を考えるとき、ゼロから作りたくなります。でも実際に強いのは、すでに自社が回している面倒くさい業務に、AIを1枚重ねる形でした。競合が真似しようとしても、郵送を受けて処理する体制のほうを持っていないからです。
もう1つの設計:名前を忘れていても、思い出せる
名刺を電子化しても、次の壁があります。「あの人、誰だっけ」問題です。
名前を覚えていれば検索できます。でも実際に思い出せないのは、名前のほうです。覚えているのはこういうことです。
- 去年の交流会で会った
- 建設関係の人だった
- 息子さんが同じ小学校だと言っていた
普通の検索では、これでは出てきません。名前で引く設計になっているからです。
そこで手がかりから引ける検索を作りました。会った場面、話した内容、書き留めたメモ。断片から候補を絞り込みます。
名刺を「保管する」のではなく、「思い出す」ための道具にする。ここが機能面での中心です。
決めたこと:お客様のデータを外部AIに学習させない
もう1つ、設計時にはっきり決めたことがあります。
お預かりした名刺データを、外部のAIに学習させません。
名刺は個人情報です。氏名、会社、電話番号、メールアドレス。それをお客様からお預かりしています。便利さのために外部サービスへ丸ごと流すことは、しません。
私は個人情報保護の認定資格(CPP)を持っていますが、資格があるからやらないのではありません。預かったものを勝手に使われたら、自分が嫌だからです。
この判断は、機能を少し不便にします。使えるAIの選択肢が狭まりますし、開発も面倒になります。それでも、ここは譲れないと決めました。
この話が、あなたの会社に効く理由
名刺の話をしましたが、たぶん本質は別のところにあります。
- 「続かない」原因は、意志や機能ではなく、構造にあることが多い。 誰がその手間を持つかを見直す
- 新規事業は、自社がすでに回している面倒な業務にAIを重ねると強い。 ゼロから作らない
- 便利さのために譲ってはいけない線を、先に決めておく。 後からでは決められない
「うちは名刺じゃないから関係ない」ではなく、あなたの会社の「引き出しの中の名刺」は何か、と考えてみてください。たいていの会社に1つはあります。
今すぐできる一歩
社内で「いつかやろう」と言われ続けているものを、3つ書き出してください。
そのそれぞれに、こう問います。
これが進まないのは、やる気の問題か、それとも構造の問題か。
構造の問題だった場合、答えは「頑張る」ではありません。誰かが手間を引き受ける形に作り替えるか、そもそもやらなくて済む形にするかの二択です。
まとめ
- 名刺が溜まるのは機能不足ではなく「自分でスキャンする」前提のせい
- だからNiraiCardは封筒で送ってもらう方式にした(既存のスキャン代行業務にAIを1枚重ねただけ)
- 名前ではなく「手がかり」から思い出せる検索にした
- お客様のデータは外部AIに学習させない。この線は先に決めておく
最悪を想定し、最善を尽くし、中庸を行く。